ひどく風の匂い

弘明寺健太のブログ

永遠の放浪者

ショーケンこと萩原健一さんが亡くなった。僕はこの人のファンというほど出演作や歌を知っているわけではないが、もちろんあのマカロニ刑事なら知っている。いや、というかこのマカロニ刑事、自分にとっては長年にわたる特別な存在といっていい。「太陽にほえろ!」は小学生の頃からよく観ていたドラマだったが、自分自身が成長するにつれ、歴代の新人刑事の中でダントツに好きになっていったのがこのマカロニだった。同じ無鉄砲でも、ジーパンのようにマッチョで男気溢れるキャラの魅力ではなく、もっとナイーブで情けない男の美学みたいなものに気づかせてくれたのは、このマカロニが最初だったかもしれない。

そもそも「太陽ににほえろ!」は、マカロニ刑事なる若者が、様々な事件を通して人間的に成長していく姿を描く"青春ドラマ"というコンセプトで始まったものらしい。今回この機会にまた映像をいくつか観たのだが、なるほどそう言われてみると、このドラマ、ずっと刑事対犯人の物語だと思っていたのだけど、そうではなくて若者対大人(あるいは社会)の物語だったということがよく分かった。マカロニは熱血漢ではあるものの、どこかまだ生き方が定まらず、常に迷っている。彼が検挙する犯人はいつも自分と同世代の若者で、犯人と対峙する度に自分は彼らとは違うと思いながらも、いつ同じ立場になってもおかしくないという共感との間で揺れているように見える。だから犯人を逮捕したときの表情はいつも哀しげで、やるせなさと後味の悪さだけが残る。ドラマの中でのその最たる場面は、やはり沢田研二扮する大学生の犯人を射殺してしまったときのものだろう。死体にしがみつき、何度も謝りながら「目を開けてください!」と泣きじゃくるその演技は本当に衝撃的だった。

そしてやはりあの死に様。危機一髪ピンチを切り抜け事件解決したその夜に、立小便のあと通り魔に刺されて絶命という、あまりにも呆気ない、無様な最期。若者の成長を描くはずだった物語はそんな不条理で幕を閉じるのだ。その後恒例となるこの殉職というアイデアショーケンによるものだったというのは有名な話だが、それだけでなく番組開始当初の企画には、ずいぶん彼が関わっていたらしい。この人は本当にカッコいいということに対して、並はずれた拘りと抜群のセンスを持っていると感じる。

 

死の直前、ゴリさんの病床を見舞い、その枕元でゆっくりタバコを吸うシーン。大好きな場面だ。

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他の刑事と違い、家族を持たない天涯孤独という設定も異質だった。やはり生身の人間というより、「放浪する若者」というイメージをシンボリックに表した存在なのである。そして永久に歳をとらないのだ。

 

マカロニが命を落とした跡地、新宿西口の野村ビルの前に、聖地巡礼に訪れる者はいない(たぶん)。今度行こうかな。

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ギターを買いました。

新年あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしく。
2018-2019年の年末年始は、横浜の野毛に落語を聴きにいった以外はほぼ家でダラダラしておりました。年末の紅白はとてもよかった。最後の桑田圭祐とユーミンのハジケっぷりを観て、あのライブエイドでのミックジャガーとティナターナーのパフォーマンスを想い出したのは僕だけでしょうか。世代によりますかね 。


ダラダラ過ごした年末年始でしたが、ひとつ、大きな買い物をしました。ギターを買ったのです。アーチトップギターという、バイオリンみたいなFホールの穴が空いているタイプのギターがずっと欲しくて探していたのですが、この度ついに自分の求めていた条件ぴったりのブツが見つかり、購入に踏みきりました。
KAY(ケイ)という、アメリカの古いブランドのギターです。このブランド、日本ではどちらかというとビザール(珍品)扱いの感もあり、実はこれも正確なモデル名は不明(笑)。楽器屋さんの話や、自分が調べた限りではおそらく1950年代のものと思われますが、そんなわけで正直試奏してみるまで、実用性はないかなとあまり期待していなかった。ところが弾いてみて、あまりに自分のイメージ通りの音だったのびっくり。スペック、弾きやすさ、コンディション、コスパ(これ結構大事)どれも申し分なし。そしてやはり素敵すぎるそのルックスが決め手となり、楽器を買うときにありがちな、あの「運命的な出会い」を感じるに至ったわけです。

というわけで早速スタジオに入って弾きまくる。
弘明寺健太の代表作(笑)、「仲見世夜曲」を弾いてみる。やはり思ったとおり、この曲はアーチトップの音がよく合う。

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新曲の「グッデイ・グッナイ」という曲です。これもアーチトップで弾きたかった曲。このギターでもっと練習しよう。

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とにかくこの、甘さの中に枯れた味わいを感じさせる独特の音色、これから色んな曲で試していこうと思ってまーす^^

『第1回 ルナティック歌謡祭』ライブレポート

ライブのレポートをブログに書くことがはあまりないのだけど、やはり今回は少し特別なライブだったので、書こうと思います。

 

2018/6/9(土)
『第1回 ルナティック歌謡祭』
at 明大前 My Space

このイベントは、いつもとはちょっと趣向を変えて、個々のミュージシャンたちが順番に自分の演奏をするだけではなく、できるだけ互いの曲に参加しあうなどして、イベント全体をパーティのような催しにしたいというコンセプトのもと、企画したものでした。

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 それは今年の2月、その少し前に知り合った岡ちゃんを中心とするユニット「エレクトリック野郎」のライブを観たのがきっかけでした。
なんとも遊び心とユーモアに溢れた、それでいて音楽的なアイデアも豊富なこのグループと是非一緒にライブをしたいと思った僕は、どんな風に彼らと共演するのがよいか考えた末、それぞれマルチな才能を持つ彼らの魅力を生かすには上記のようなスタイルのイベントがベストではないかと思い至ったわけです。

この構想を彼らに持ちかけたところ、みんな快く賛同してくれて、そこからワクワクするような、そして大変な日々が始まったのでした(笑)
ある程度予想していたことではあるけれど、みんな忙しい合間を縫っての参加なだけに、どこまできちんとしたショーにできるのか、その不安とプレッシャーに押し潰されそうな毎日…
しかし彼らは、僕が思っていた以上にプロフェッショナルでした。スタジオでの練習は真剣そのものだったし、当日の進行についても香盤表まで作って準備するといった気合いの入れよう。期待と緊張が入り混じる中、本番を迎えたのでした。

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とにかくあっという間の2時間半(くらい?)のステージで、色々と失敗もしたけど、いくつも見どころがある楽しいイベントになったのではないかと思います。

 

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湯浅さん。ピアノにギター、その他なんでも華麗に弾きこなす職人です。バンドの音に厳しく目を配り、みんなを引っ張っていく頼もしい存在。オリジナル曲も手伝わせてもらいました。今回一番絡みが多かったのはこの人。この人と一緒に演奏すると本当に勉強になる!

 

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岡ちゃん。人柄そのもののようなオリジナル曲は、笑いあり涙ありの日常を優しく描き、聴く人の心にじんわりと沁みていきます。今回このイベントにあたって2曲の歌を書きおろしてくれました。いずれも僕の好みを汲み取ってくれたとのことで、実際その通り好きになりました。才能あるなぁ。

 

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まこつ。弱冠22歳ながら、抜群のセンスを持ったミュージシャンです。楽曲が求める音を的確に捉え奏でるその腕前はお見事の一言。初めて彼女のトランペットを聴いて以来、その音色にずっと惹かれ続けています。彼女もまたマルチプレーヤーで、今回も力強いギターとボーカルでオリジナル曲を聴かせてくれました。普段は「verbal Leer drop」というロックバンドのボーカリストとして活躍中。

 

今回は写真たくさんアップだぁー!盛りだくさんだったイベントの内容が少しでも伝われば・・・

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動画も。個人的に今回のベストとして挙げたい「ウォッシュボード・ママ」。こういうのをずっとやりたかったんだよね~。メンバーの素晴らしい演奏に拍手!

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バカラックのカバー「雨に濡れても」。数年前から演っているレパートリーですが、このメンツでできたのは感無量であります。

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 観に来てくれた皆さん、切り盛りしてくれたMy Spaceの店長ひーちゃんとママさん、本当にありがとうございました。
かけがえのない時間を皆さんと共有できて幸せでした。
また逢えたら嬉しいな!


さあ、打ち上げしよっと♪

 

《メンバー》
・湯浅秀栄(ピアノ、ギター、歌)
・小湊真琴(トランペット、ギター、歌)
・岡ちゃん(ギター、ハーモニカ、歌)
弘明寺健太(ギター、バンジョー、歌)

 

 

雑記 2018年春

今回はタイトル通り単なる雑記です。特にテーマもなく。すごく久しぶりのブログ更新ですが。

今後のライブに向けて色々と慌ただしくなってきました。

去年からわりと積極的にオープンマイクやらに顔出すようになって以来、嬉しいことに音楽仲間も増え、本当にびっくりするくらい、才能に溢れた人や、素晴らしい個性を持った方々にたくさん出会いました。やっぱりそういう人に出会うと、一人だけで音楽をやっているのはもったいないな、というか、力を合わせて何かを一緒にやればもっと面白いこと、そこいらのメジャーなプロにも引けを取らないエンターテイメントができるのでは?と思わずにはいられなくて。そんなわけで今年も自分のリソースが許す限りの企画やコラボを実現していきたいと考えています。

インターネットの普及やSNSの影響か本当にところよく分からないけど、音楽というものがこれまでの「演る人」と「聴く人」の二元的な構造でなく、もっと双方向的な、参加型の営みに変わってきているのは確かだと思う。それは良い面もあればそうともいえない面もあるとは思うのだけど、そういう中で自分はどんなスタンスで音楽を続けていくべきなのか、日々考えています。そんな難しいこと考えずに、ただ楽しくやればいいんだよって言う人もいるだろうけど、自分はこと音楽に関しては、生真面目に考えてしまう性分で、まあそれでいいと思っている。趣味とそれ以上の境って未だによく分かんないんだけど、とにかく丁寧に音楽に取り組みたい。以前、「プロはアマチュアに勝てない」という、とてもいい言葉を聞いた。つまり商業的な制約がないアマチュアこそ、プロがやりたくてもやれないことをやれる自由があり、それは別に奇抜なことを好きなだけできるとかそういうことではなく、何かに妥協しなくてもいいということ。例えば僕らには納期なんてものはないし、プロが1週間で仕上げなければならない作業に、とことんこだわって1年費やしたって誰も文句は言わない。だからやっぱりこの特権を使わない手はないと思うんです。場合によっては金銭的、経済的なハンデってのはあるかもしれないけど、それもアイデアという武器を使って克服する可能性は残されている。夢のある話じゃないですか。

とまあ、そんな思いを巡らせる今日この頃です。

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この写真は、近所でいつも見かける街ネコの「キヨエ」。居酒屋の入り口にいつも鎮座している。店の人が餌付けしているせいで人馴れしているのかもしれないが、多分かなり高齢と見え、人が近づいてもほとんど微動だにせず、悠然としているその姿がなんとも愛おしい。「キヨエ」という名前は店の大将がエサをやりながら確かそう呼んでいたという妻の証言がもとになっていて、本当のところメスかオスかも知らないんだけど、我が家ではそう呼んでいる(笑)

<ライブ情報>
6/9(土) 明大前マイスペース
http://meidaimae-myspace.com/
7/29(日) 人形町サロンゴカフェ
http://www.cafe-salongo.com/

最近動画を何本かアップしました。

www.youtube.com

 

 

 

 

総括 2017

と偉そうなタイトルつけたけど、このブログも回を重ねるごとに更新頻度が減り、もはや季刊のような状態に…
しかしそれは書くネタがないくらい音楽活動が下火になっているということではなく、むしろその逆で、特に秋以降はお陰様で非常に充実した活動をさせてもらいました。つまりそれだけ忙しくてなかなか更新する暇がなかったと。まあそういうことで。

今年は積極的に方々のオープンマイクなどに顔を出した甲斐あって、本当にたくさん素晴らしいミュージシャンの方々と出会いました。そこで繋がった人たちを誘っていくつかイベントも企画できたし、改めて音楽を通じて世界を広げていく可能性みたいなものを実感できた年でありました。神戸にも2回行ったしね。

と同時に、限られた時間の中でどれだけ納得のいく活動ができるか、自分が音楽的にどれだけ成長できるか、真剣に考えさせられる一年でもありました。
何事もそうだけど、用意された環境の中で、その枠組みの中で動いているだけではきっと飛躍は望めないし、本当に面白いことはできないのだと思う。来年はもっともっと主体的に、自分なりの音楽のやり方、あり方を追求していきたい。今のところまだはっきりと具体的なアイデアがあるわけではないのだけれど。

とにかく色んな出会いにより大いに刺激を受けた一年だっただけあって、最近、自分にしては順調に新曲もできつつあるし、来年はなんとなくまた新しい展開がありそうな予感がしているのです。わずかな前進かもしれないけど。

今年音楽を通じて関わったすべての人たちに感謝。
そして来年もどうぞよろしく!

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勝手にライナーノーツ: まえだけんた&ジ・アッシュトレイズ「トレンチコート」

神戸の音楽仲間たちが、また素晴らしいCDを作りました。 

まえだけんた & ジ・アッシュトレイズ「トレンチコート」

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本当にこれは掛け値なしの傑作であります。是非一人でも多くの方に聴いてもらいたいと思ったので、今回はこのアルバムについて熱く語ります。

いや、そりゃまあ、自分の作った曲も入っているからなんていうイヤらしい気持ちが全くないと言ったらウソになる。でもそれだけではこうしておこがましくもライナーノーツを書こうなんて思わない。

とにかくこのアルバムを聴いて、せめて言葉でその魅力を伝えられたならという強い思いにかられたので、拙文ではありますが、心を込めて彼らの音楽を紹介したいと思います。


まえだけんた君との出会いは約3年前に遡る。当時神戸に住んで色んな人たちと音楽を通じて知り合ったなかでも、その出会いは神戸を離れる直前のことで、残念ながら神戸で一緒に演奏する機会は決して多くはなかったのだけれど、その後神戸にライブをしに行くときは必ず対バンさせてもらっているし、彼が東京でライブをするときはできるだけ足を運ぶようにしている。

それはやはりその音楽性に強いシンパシーと敬意を感じているからなんだと思う。

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そしてそんなマエケン君から今回届けられたCDは、予想を遥かに上回る素晴らしさでした!


それでは、解説︎!

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1. スーパームーン

ここで歌われている月とは何を意味するのだろう。追い続けている夢か、変わることのない信念か、それとも何かへの強い愛か。

あまりに大きくて眩しすぎるその何かは、日々満ち欠けを繰り返し、揺れている。

マエケン君の歌詞は、シンプルで平易な言葉の中に、いくつもの深い意味を含んでいる。やたらボキャブラリーを詰め込もうとする弘明寺健太のそれとは対照的で、そしてそれよりも優れている。

少ない言葉によって語られるこの「儚さ」こそが彼の歌の真骨頂だと思う。そんな魅力が詰まった、オープニングを飾るに相応しい一曲。


2. ランドセル

大人だからといって、いつも子供の手本になるような存在であるとは限らない。

煙草を吸いながら、ランドセルを背負って走っていく子供たちを見て、自分にもこんな時期があったのだと、ふと振り返る。そして自戒しつつも少し優しい気持ちになったりして。

要するに、余計なことを考えたりせず、たまには大人も子供と同じ目線になってフンフンと一緒に鼻歌を歌えばいいのだ。


3. ロノウェ

悪魔との契約を破棄して、めでたく28歳の誕生日を迎えたマエケン君。ありふれた幸せを選んだんだね。

いやいや、悪魔なんぞに魂を売り渡さなくても、君は溢れる才能と素敵な仲間たちを得た!

そして悪魔に向かって来世で会おうとうそぶく、この太々しさ!

自分もそんな台詞を言ってみたかったぜ。


4. レイトショー

唯一本人以外のソングライティングであるこの曲の作者は、弘明寺健太(笑)

アメリカン・ニューシネマの主人公のように、社会にうまく適応できず彷徨う放浪者のモチーフをマエケン君に歌ってもらいたい、という思いつきから作ったこの曲、どーよ、狙い通り大成功!(自画自賛ww)

なんて、嘘です、この曲はもはやオリジナルを遥かに超えたまえだけんたの曲となっていて、それは卓越したマエケン君とこのバンドの表現力があるからこそなのです。

この曲をアルバムに収録してくれたこと、心の底から感謝しています。本当にありがとう!


5. クヌルプ

タイトルのクヌルプとは、ドイツの作家、ヘルマン・ヘッセの同名の小説からの引用とみた。(勉強不足の小生は残念ながら未読)

何かを追い求めるということは、孤独との闘いでもある。そんな不安をあらわすかのような、マイナーコード。これがまた、非常に自分好みなのであります。

迷いがないわけではない。それでも安易な妥協や連帯には背を向けて進まずにはいられないのだ。


6. お疲れさん

仕事帰りにこの曲を聞くたびに、沁みるんだな…(T_T)

理想と現実の狭間で折れそうになる心に向かって、自ら励ましと労いの言葉をかけられる、そんな強さを持ち続けられますように。

甘塩っぱいメロディとほろ苦い歌詞は、この曲がうわべだけの応援歌になることを拒んでいる。


7. トレンチコート

そしてまた夜。ひとり暗闇の中に佇み、じっと耳を澄ませ、この道の行方を探る。でも今はまだ何もはっきりとは見えない。

雨に霞んで行き先が見えないなら、強がりだとしても、いっそ傘なんか持たずにこの雨に濡れていた方がずっとリアルに今を感じることができるだろう。本当の光は、遠い星空になんかじゃなく、この身を伝ってゆく雨粒を流れ星として見据えるこの心の中にあるのだ。

ここにあるのはセンチメンタルな感情などではなく、固い意志を持ち続けようという力強いメッセージだ。

そしてそれはこのアルバム全体に貫かれているテーマともいえる。


…おっと、ここで終わりじゃないですよ。

今日もライブを終えて、朝、人の流れに逆らいながら帰途につくマエケン君の、あくび交じりのモノローグでこのCDは幕を閉じます。これがまたなんともニクいエンディングなんだ。聴き逃さないでね。

 

つまりこのアルバムは文学である。夢と向き合いながら旅を続ける一人の男の私小説であり、そしてそれは世の中のすべての人たちの物語でもある。

 

♪♪♪

バックを支えるジ・アッシュトレイズ。およそ今日までのロックやブラックミュージックへの深い愛情の上に産み出されたマエケン君の楽曲に呼応するかのようなスピリットを感じさせる演奏だ。まるでエレキギターを持ってフォークロックをやり始めた頃のボブ・ディランのサウンドみたい。ってちょっと褒め過ぎか(笑)

いや、でもホントに、これはもう音楽が好きで仕方ないって人たちにしか出せない音です。楽曲の良さを最大限に引き出そうという思いが、その丁寧なアレンジに表れている。勢いだけでなくそんな実直さと熱意が詰まっているから、何度聴いても飽きない。

なんたって美しいマエケン君のメロディに、見事にマッチしているではないですか。ちくしょー、羨ましいぜ!


そんなわけで、とにかくこのアルバムを入手して以来、毎日欠かさずに聴いております。本当にたくさんの人たちにこのCDを聴いてもらいたい。

まったく偽りない僕の願いです。

なにとぞ、よろしく。

 youtu.be

 まえだけんたHP(CD販売ページ): 

http://kenta-maeda.com/purchase/

秘かな愉しみ

 

少し気障な言い方ですが、絵を描くように曲を作りたいと思っている。

自分は絵心というものはあまりないのだが、遥か昔、まだ社会人になって間もない頃、職場で美大出身の先輩に深夜残業しながらちょっとしたデッサンの手ほどきを受けたことがある。ひとまず目の前にあったマグカップを描いた僕の絵を見ながら、その先輩はこう言うのだった。「お前、これをマグカップだと思って描いただろ。デッサンするには、一切の既成概念、固定観念を取り払わなければダメだ。『これはマグカップだ』という意識があるから、実際にはお前からの角度では見えていないはずの、裏側のこの柄の部分などを勝手に描いている。さらに言えば、今お前は線を描いたが、厳密にはそれは線ではない。光が浮かび上がらせた明度や色の境目であって、そこに線が存在しているわけではない。もちろん線を描くこと自体はいいが、線だと思って描いてはいけない。」
なんだかちょっと禅問答のような話ではあるが、なるほど、言われてみると確かに、自分は目の前にある対象を本当に忠実に写し取ろうとしていただろうか。ちょっと線がずれてしまった場合はその矛盾をごまかすためにつじつま合わせの線を適当に加えたり、体裁のためだけに影を描いたりしていたのではないか。
その後先輩に言われたことをできるだけ意識しながら何度がスケッチをしてみたら、それは非常に集中力が必要で、10分もやるだけでかなり疲れる作業であることが分かったのだった。

曲作りも同じことが云えるのではないか。
音は目の前に形としてあるわけではないけれど、自分の中にある漠然をしたイメージを、どれだけイメージ通りに音楽として忠実に具現化できるか。メロディも、コードも、歌詞も、自分が伝えたいことを本当に表現できているか、何度も自問自答する。「なんか違うけどまあいいか」とは、決してしないこと。そう肝に銘じて曲作りに取り組んでいるもんだから、自分は1曲を仕上げるのにやたらと時間がかかってしまう。もちろん豊富な音楽理論ボキャブラリーを持っていれば、それは有用な絵筆となって、近道を見つけやすくなるだろうし、より遊び心も生まれてくるだろう。(それこそが理想)しかしそういったものにそれほど明るくない自分は、とにかく時間をかけて答えに辿り着くまでトライ&エラーを繰り返すという方法をとっている。それこそ1小節のフレーズに何時間も何日もずっと考え続けたり・・・

そんなわけで今日もまたギターを弾きながらああでもない、こうでもないと没頭していた。

要するに、そんな営みが自分にとってはとても愉しいことなのです、というお話でした。

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パブロ・ピカソ画伯の「3人の音楽家」