ひどく風の匂い

弘明寺健太のブログ

勝手にライナーノーツ: まえだけんた&ジ・アッシュトレイズ「トレンチコート」

神戸の音楽仲間たちが、また素晴らしいCDを作りました。 

まえだけんた & ジ・アッシュトレイズ「トレンチコート」

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本当にこれは掛け値なしの傑作であります。是非一人でも多くの方に聴いてもらいたいと思ったので、今回はこのアルバムについて熱く語ります。

いや、そりゃまあ、自分の作った曲も入っているからなんていうイヤらしい気持ちが全くないと言ったらウソになる。でもそれだけではこうしておこがましくもライナーノーツを書こうなんて思わない。

とにかくこのアルバムを聴いて、せめて言葉でその魅力を伝えられたならという強い思いにかられたので、拙文ではありますが、心を込めて彼らの音楽を紹介したいと思います。


まえだけんた君との出会いは約3年前に遡る。当時神戸に住んで色んな人たちと音楽を通じて知り合ったなかでも、その出会いは神戸を離れる直前のことで、残念ながら神戸で一緒に演奏する機会は決して多くはなかったのだけれど、その後神戸にライブをしに行くときは必ず対バンさせてもらっているし、彼が東京でライブをするときはできるだけ足を運ぶようにしている。

それはやはりその音楽性に強いシンパシーと敬意を感じているからなんだと思う。

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そしてそんなマエケン君から今回届けられたCDは、予想を遥かに上回る素晴らしさでした!


それでは、解説︎!

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1. スーパームーン

ここで歌われている月とは何を意味するのだろう。追い続けている夢か、変わることのない信念か、それとも何かへの強い愛か。

あまりに大きくて眩しすぎるその何かは、日々満ち欠けを繰り返し、揺れている。

マエケン君の歌詞は、シンプルで平易な言葉の中に、いくつもの深い意味を含んでいる。やたらボキャブラリーを詰め込もうとする弘明寺健太のそれとは対照的で、そしてそれよりも優れている。

少ない言葉によって語られるこの「儚さ」こそが彼の歌の真骨頂だと思う。そんな魅力が詰まった、オープニングを飾るに相応しい一曲。


2. ランドセル

大人だからといって、いつも子供の手本になるような存在であるとは限らない。

煙草を吸いながら、ランドセルを背負って走っていく子供たちを見て、自分にもこんな時期があったのだと、ふと振り返る。そして自戒しつつも少し優しい気持ちになったりして。

要するに、余計なことを考えたりせず、たまには大人も子供と同じ目線になってフンフンと一緒に鼻歌を歌えばいいのだ。


3. ロノウェ

悪魔との契約を破棄して、めでたく28歳の誕生日を迎えたマエケン君。ありふれた幸せを選んだんだね。

いやいや、悪魔なんぞに魂を売り渡さなくても、君は溢れる才能と素敵な仲間たちを得た!

そして悪魔に向かって来世で会おうとうそぶく、この太々しさ!

自分もそんな台詞を言ってみたかったぜ。


4. レイトショー

唯一本人以外のソングライティングであるこの曲の作者は、弘明寺健太(笑)

アメリカン・ニューシネマの主人公のように、社会にうまく適応できず彷徨う放浪者のモチーフをマエケン君に歌ってもらいたい、という思いつきから作ったこの曲、どーよ、狙い通り大成功!(自画自賛ww)

なんて、嘘です、この曲はもはやオリジナルを遥かに超えたまえだけんたの曲となっていて、それは卓越したマエケン君とこのバンドの表現力があるからこそなのです。

この曲をアルバムに収録してくれたこと、心の底から感謝しています。本当にありがとう!


5. クヌルプ

タイトルのクヌルプとは、ドイツの作家、ヘルマン・ヘッセの同名の小説からの引用とみた。(勉強不足の小生は残念ながら未読)

何かを追い求めるということは、孤独との闘いでもある。そんな不安をあらわすかのような、マイナーコード。これがまた、非常に自分好みなのであります。

迷いがないわけではない。それでも安易な妥協や連帯には背を向けて進まずにはいられないのだ。


6. お疲れさん

仕事帰りにこの曲を聞くたびに、沁みるんだな…(T_T)

理想と現実の狭間で折れそうになる心に向かって、自ら励ましと労いの言葉をかけられる、そんな強さを持ち続けられますように。

甘塩っぱいメロディとほろ苦い歌詞は、この曲がうわべだけの応援歌になることを拒んでいる。


7. トレンチコート

そしてまた夜。ひとり暗闇の中に佇み、じっと耳を澄ませ、この道の行方を探る。でも今はまだ何もはっきりとは見えない。

雨に霞んで行き先が見えないなら、強がりだとしても、いっそ傘なんか持たずにこの雨に濡れていた方がずっとリアルに今を感じることができるだろう。本当の光は、遠い星空になんかじゃなく、この身を伝ってゆく雨粒を流れ星として見据えるこの心の中にあるのだ。

ここにあるのはセンチメンタルな感情などではなく、固い意志を持ち続けようという力強いメッセージだ。

そしてそれはこのアルバム全体に貫かれているテーマともいえる。


…おっと、ここで終わりじゃないですよ。

今日もライブを終えて、朝、人の流れに逆らいながら帰途につくマエケン君の、あくび交じりのモノローグでこのCDは幕を閉じます。これがまたなんともニクいエンディングなんだ。聴き逃さないでね。

 

つまりこのアルバムは文学である。夢と向き合いながら旅を続ける一人の男の私小説であり、そしてそれは世の中のすべての人たちの物語でもある。

 

♪♪♪

バックを支えるジ・アッシュトレイズ。およそ今日までのロックやブラックミュージックへの深い愛情の上に産み出されたマエケン君の楽曲に呼応するかのようなスピリットを感じさせる演奏だ。まるでエレキギターを持ってフォークロックをやり始めた頃のボブ・ディランのサウンドみたい。ってちょっと褒め過ぎか(笑)

いや、でもホントに、これはもう音楽が好きで仕方ないって人たちにしか出せない音です。楽曲の良さを最大限に引き出そうという思いが、その丁寧なアレンジに表れている。勢いだけでなくそんな実直さと熱意が詰まっているから、何度聴いても飽きない。

なんたって美しいマエケン君のメロディに、見事にマッチしているではないですか。ちくしょー、羨ましいぜ!


そんなわけで、とにかくこのアルバムを入手して以来、毎日欠かさずに聴いております。本当にたくさんの人たちにこのCDを聴いてもらいたい。

まったく偽りない僕の願いです。

なにとぞ、よろしく。

 youtu.be

 まえだけんたHP(CD販売ページ): 

http://kenta-maeda.com/purchase/