このアルバムを聴いたのはたぶん2005年、まだリリース間もない頃で、Amazonか何かのネット上の試聴がきっかけで購入したと記憶しています。
初めて聴いたとき、極めてレトロで気怠い曲調のジャズなのに、とてもクリアで現代的な音質で作られているという、ある種アンバランスな、それ故に新鮮な響きに、まず耳を奪われました。すべてのアコースティック楽器の繊細なタッチが手にとるように伝わってきますし、ボーカルは唾を飲み込む音まで聞こえるんじゃないかと思うくらい生々しく録られています。技術の進歩とはたいしたものだと感心するとともに、これがなんとも気持ちよく、不思議な感覚でした。
マデリン・ペルーという人はこの時初めて知ったのですが、「現代のビリー・ホリデイ」と評されていたほど、そのアンニュイな歌声は実に魅力的。フランス系の血を引いていることがすぐ分かる、シャンソン歌手をも思わせるその空気感は、やはりどこかヨーロッパ的な哀愁に満ちています。
ただ正統なジャズ畑の人かと思いきや、その経歴は意外にワイルドなもので、アメリカで生まれ、13歳でパリ移住後に音楽を始めてからは、ストリートで歌いながらヨーロッパを旅するというような生活をしていたそう。確かに模範的なジャズボーカルマナーをなぞっただけではない、独特の濁りや、実年齢(たぶんこのとき30歳になったばかりくらい)以上の風格は、そういった経験から来るものなのかもしれません。そういえばこの、少し汚れた路地でじっとこちらを見つめているジャケットも、そんな逞しい出自を誇らしげに表しているようにも見えてきます。