昔からギターヒーローというものに対する憧れがあまりなく、いわゆる英国の三大ギタリスト(エリック・クラプトン、ジェフ・ベック、ジミー・ペイジ)もそれほど熱心に追いかけることはありませんでした。ギターは大好きな楽器ですが、音楽を聴くにあたっては、やはりまずは楽曲に耳がいくという志向だったからだと思います。そんな中で、この人はかなり好きなロックギタリストです。
ピーター・フランプトンは、イギリス出身のシンガーソングライター/ギタリストです。本作は1976年にリリースされ、2枚組のライブアルバムでありながら全世界で大ヒットを記録し「ライブアルバムの金字塔」とも称されることになった作品。調べると色々と逸話があるようです。それまで決して大きなセールス実績のあるアーチストではなかったけれど、年間200本に及ぶ精力的なライブ活動とプロモーションを行ったこと、当初1枚のアルバムだった予定が、それでは足りないと感じたレコード会社の上層部が2枚組で発売することを決めた話、また一方でヒットの要因は彼の甘いルックスによるものだと、揶揄する声も当時はあったようです。
本作は、同じ頃にやはり大ヒットした、フリートウッドマックの「Rumours」やイーグルスの「Hotel California」と並んで、ロックが初期の反体制的な精神性を失い巨大産業化した象徴として、ややネガティブに語られることも少なくありません。ただ、とんでもない大ヒットをするアルバムというのはやはりそれだけの理由や魅力がある。音楽的にも。
このアルバムは、ライブアルバムならではの魅力がたくさん詰まっています。ライブ空間が感じられる音の録り方、それでいて各楽器のタッチもしっかり伝わってくる。観客の声援の入り方が少しわざとらしいなと感じるところがなくもないですが、そういう声援や手拍子もサウンドの一部として巧みに取り入れられていて、自分もその熱気の中にいるような気分にさせてくれます。そしてもちろん、本人はじめ手練れのバンドメンバーによる、確かな技術に裏打ちされた、聴き応えのある演奏がたっぷり堪能できます。
彼のギターについていうと、その奏法はハードロック全盛だった当時ではちょっと珍しいものだったかもしれません。ロックギターの常套句ともいえるチョーキング(弦を、弦の垂直方向へぐいっと押し上げたり押し下げたりして音をベンドする奏法)よりも、スライドやトリルを使って、フレーズを細かく繋いでいくスタイル。ちょっとジャズに近いかもしれませんが、それでもしっかりロックンロールしている。正直言うと、前述の通り若い頃は楽曲中心に聴いていたので、このアルバムも曲のキャッチーさ、ポップさに惹かれて聴いていたところがあり、ギタープレイに関してはあまり耳が向かなかったのですが、年齢を重ねるにつれその良さや巧さが分かるようになっていきました。
また、トレードマークのレスポールカスタムによる煌びやかな音色も魅力的ですが、やはり彼のプレイで欠かせないのが、トーキングモジュレータ。これはギターの音をアンプからそのまま出すのではなく、専用のスピーカー経由で、ビニールチューブを通して口に繋ぎ(チューブを咥えて)、口の中て共鳴させるという変な装置です。話し声とギターの音が混ざりあったような独特な音色を生み出します。

レコードから聴こえてくるこの不思議な音はいったい何なんだろう?と、しばらく謎だったのですが、こういうひねりを加えるあたりも、彼のアーチスティックなこだわりが垣間見えるようです。
当時、アイドル人気だなんて言っていた人たちは本当にこの演奏を聴いていたんでしょうか。大ヒット相応しい名作だと、僕は思っています。